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釧路地方裁判所 昭和45年(行ウ)12号 判決 1974年4月23日

帯広市西一条南五丁目六番地

原告

有限会社光楽園旅館

右代表者代表取締役

金沢清利

右訴訟代理人弁護士

杉村英一

市西五条南六丁目一番地

被告

帯広税務署長

被告

三関忠博

右指定代理人

成田信子

五十嵐徹

阿部昭

上嶋康夫

広田四郎

千葉満幸

右当事者間の法人税課税処分取消請求事件について次のとおり判決する。

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(申立)

一、原告

(一)  被告が原告の昭和四一年一二月一日から昭和四二年一一月三〇日までの事業年度分の法人税につき昭和四四年六月二八日付でした更正処分中税額五万四〇〇円を超える部分および同日付でした過少申告加算税賦課処分を取消す。

(二)  訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告

主文同旨

(主張)

一、請求の原因

(一)  原告が昭和四三年一月三一日原告の昭和四一年一二月一日から昭和四二年一一月三〇日までの事業年度(以下本件係争事業年度という)分の法人税につき、課税標準たる所得金額一八万五四七円、法人税額五万四〇〇円として確定申告したところ、被告は、昭和四四年六月二八日付で課税標準たる所得金額四六一万六、二七七円、法人税額一五五万一、七〇〇円とする更正処分ならびに過少申告加算税額七万五、〇〇〇円とする加算税賦課処分をした。

(二)  しかしながら右の更正処分には原告の申告額を超える部分につき課税標準たる所得金額を過大に評価した違法があり、これにもとづく右の加算税賦課処分もまた違法であるから、その取消を求める。

二、請求の原因に対する答弁

請求の原因(一)、(二)の事実は認める。

三、被告の主張

(一)  原告の本件係争事業年度において、原告にはその確定申告にかかる所得のほか、これに加算すべき次の内訳による所得があるので被告はこれにもとづき本件の課税処分を行つたものである。

1. 益金 五六二万一、四三六円

(1) 建物譲渡収入 一二一万四、三〇〇円

(2) 借地権譲渡収入 四二二万五、八〇〇円

(3) 雑収入 一八万一、三三六円

2. 損金 一一八万五、七〇六円

建物譲渡収入原価 一一八万五、七〇六円

3. 右差引所得金額 四四三万五、七三〇円

(二)  右のうち借地権譲渡収入を認定したのは次の理由による。

1. 原告は、いわゆる同族会社であるところ、昭和三七年一一月三〇日その代表取締役である金沢清利とその妻および両名の間の未成年の子二名から同人らの共有にかかる帯広市西三条南九丁目二番地の三所在の宅地一六五・二八平方メートル(以下本件土地という)を建物所有目的で賃借し、その地上に家屋番号同番二一、木造亜鉛メツキ鋼板葺二階建店舗、一階一四二・七一平方メートル、二階一四九・九八平方メートルの建物(以下本件建物という)を所有していた。ところが、昭和四二年六月二〇日、原告は本件建物と本件土地の借地権を、また右金沢清利ほか三名は本件土地を、太洋電気株式会社に対し一括して代金二、〇〇〇万円で売渡した。

2. しかし右の代金に占める本件建物の価格は金一二一万四、三〇〇円と評価され、また本件土地の借地権割合は二五パーセントとみるを相当とするから、本件土地の借地権の譲渡価格は次の計算によつて一応金四六九万六、四〇〇円と算定されるが、本件の具体的事情を考慮してこれを減額し、金四二二万五、八〇〇円と評価したものである。そこで被告はこれを原告に生じた借地権譲渡収入として認定した。

<省略>

(借地権割合)=469万6,400円(借地権譲渡価格)

3. また仮に右の売買契約において借地権の対価を無償とするような約定があつたとするなら、原告のそのような行為・計算は本件土地付近一帯の取引慣行に反するうえ、これを容認すれば法人税の負担を不当に減少させる結果となるから、被告はかかる原告の行為・計算を否認し、前述の借地権譲渡価格相当額を原告に生じた収入としてその所得に計上する。

三、原告の答弁および主張

(一)  抗弁(一)のうち、原告の本件係争事業年度において被告主張の所得につき確定申告がないことおよびその明細中建物譲渡収入が原告に帰属したことは認めるが、借地権譲渡収入の帰属についてはこれを否認する。抗弁(二)のうち、原告のした売買契約の目的に本件土地の借地権が含まれていること、右借地権の譲渡価格が金四二二万三、八〇〇円であることおよび本件のような事案において借地権譲渡に対価を伴わないことが取引慣行に反することは否認し、その余の事実はいずれも認める。

(二)  被告が原告の本件係争事業年度における所得に借地権譲渡収入を計上したことは次の理由によつて違法である。

1. 本件土地の賃貸借契約は、原告が金沢清利ほか三名と通謀のうえ、原告会社の帳簿処理の便宜のため、賃借したかのように仮装して締結したものであるから無効であつて、そのような効力のない借地権を課税の対象とすることは違法である。

2. また右賃貸借契約は、その賃料を賃貸人である金沢清利とその妻および両名の間の未成年の子二名の生活費にあてるために締結されたものであつてその便途につき父母と子との間に利益が相反するにもかかわらず、未成年の子二名についての意思表示は、父母である金沢清利とその妻が特別代理人によることなく自ら子に代つてしたものであるから無効であり、したがつてその無効部分の借地権についての課税は違法である。

3. 被告は借地上の建物が譲渡されたときは借地権も譲渡されたものとしてこれを課税の対象とするが、そのような取扱は税法上明文の規定による根拠を欠いているからいわゆる租税法律主義に違背しており、また被告による本件土地の借地権価格の評価は、賃貸借の期間、賃料額、権利金等の授受の有無、建物の現況などの具体的事情を全くその判断資料とすることなくきわめて杜撰な方法によつてされたものであり、そのような評価にもとづく課税は国税通則法一条にいう国税に関する法律関係明確化の目的、税務行政の公正な運営の目的等に反しているから、いずれにしても右借地権譲渡収入に対する課税は違法である。

(立証)

一、原告

(一)1. 甲第一号証提出。

2. 証人瀬尾昭男の証言、原告会社代表者金沢清利尋問の結果各援用。

(二)  乙号各証の成立(第一二号証の三、四については原本の存在も)を認めた。

二、被告

(一)1  乙第一ないし第五号証の各一、二、第六号証、第七ないし第一一号証の各一、二、第一二号証の一ないし八(同号証の三、四は写)、第一三ないし第一六号証、第一七号証の一ないし五、第一八号証の一、二、第一九号証の一ないし三、第二〇号証各提出。

2  証人山内舜三郎、同渡辺勝次の各証言援用。

(二)  甲第一号証の成立を認めた。

理由

一、原告が昭和三七年一一月三〇日その代表取締役である金沢清利とその妻および両名の間の未成年の子二名から同人らの共有する本件土地を建物所有の目的で賃借し、その地上に本件建物を所有していたことは当事者間に争いがない。原告は、右賃貸借契約は原告会社の帳簿処理の便宜のため通謀虚偽の意思表示により締結されたもので無効であると主張するが、先ず前記のとおり原告は本件土地をその地上に本件建物を所有して実際に占有使用していたのであるから右契約が貸借の実質を有していたことは明らかであり、また賃料の援受についても、成立に争いのない乙第一号証の一、二、第二号証の一、二、第三号証の一、二、第四号証の一、二、第五号証の一、二、第七号証の一、第八号証の一、第九号証の一、第一〇号証の一、第一一号証の一、第一二号証の三、四(原本の存在についても争いがない)証人瀬尾昭男の証言および原告会社代表者金沢清利尋問の結果によれば、その形態が常に金銭のみに限られてはいなかつたにしても約定の賃料額に相応する対価が原告より前記金沢清利らに支給されていたと認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠がないので、結局原告と右金沢清利らの間には、本件土地につき貸借関係が存在しかつその内容は実質的にも賃貸借であつたというべきである。なお、原告は、右契約につき賃貸人である金沢清利およびその妻と、同じく賃貸人である両名の間の未成年の子二名との間では、賃料の使途につき利益が相反するから、右金沢夫婦がその子らのためにした賃貸の意思表示は無効である旨主張するが、いわゆる利益相反とは親子間で法律上その利益が対立する場合をいうものと解されるところ、右原告の主張するところがこれに該らないことは明らかであつてその主張自体失当である。

二、次に原告の本件係争事業年度内である昭和四二年六月二〇日原告と右金沢清利ほか三名が太洋電気株式会社に対し、本件土地・建物を一括して代金二、〇〇〇万円で売渡したことについて当事者間に争いがない。そして一般に借地上の書物が譲渡された場合、契約当事者間で明示的に約定されなかつたにしても、特別の事情のない限り建物に附随してその敷地の借地権をも譲渡する合意があつたものと推定すべきところ、本件について右推定を左右するような特別事情を認むべき証拠はないから、本件建物の売主である原告は、それとともに本件土地の借地権も譲渡したとみるのが相当である。この点につき原告は、右のような借地権譲渡を課税の対象とすることは、税法上明文の規定による根拠を欠きいわゆる租税法律主義に反すると主張するが、借地権は一定の経済的価値を有するものとしてそれ自体独立して取引の対象となし得るものであり、本件のようにそれが建物とともに譲渡された場合にもその借地権自体の経済的価値を否定すべき理由はないから、これを法人税法上の課税対象たる資産の譲渡とみることについて何ら疑問の存しないところである。

三、そこで本件土地の借地権の譲渡価格の点につき判断するに、成立に争いのない乙第六号証、第一二号証の四(原本の存在についても争いがない)ないし六、第一七号証の一ないし五、証人瀬尾昭男、同山内舜三郎、同渡辺勝次の各証言および原告会社代表者金沢清利尋問の結果を総合すると、本件土地の借地権割合は、近傍類地の取引例、本件土地の位置・環境、賃貸借契約の内容等に照すと、本件建物がかなり老朽化していたことなどを考慮しても被告主張の二五パーセント(ただし被告はこの率で算出したところをさらに減じた借地権価格を認定しているので実際にはこれよりやや低い率となる)を下まわることはないと認められ、右認定を左右するに足りる証拠がなく、したがつてその譲渡価格は被告主張の金四二二万五、八〇〇円を下まわることはないとみるのが相当である。なお原告は、被告による右借地権価格の評価方法は杜撰であつてそのような評価にもとづく課税は国税通則法一条所定の目的に反し違法であると主張するが、その評価額が客観的にみて相当とみられることは右に認定したとおりであり、またその評価の過程において原告に不利益となるような恣意的な判断が加えられたとする事情を窺わせるような証拠もないので、右原告の主張は採用できない。

四、したがつて右借地権譲渡価格相当額は原告に生じた借地権譲渡収入として本件係争事業年度における所得計算上の益金に計上されるべきものであり、また右以外に被告の主張する益金および損金の内訳中建物譲渡収入の点は当事者間に争いがなく、その余についてもその認定方法や金額について原告は明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべきであり、しかも以上が原告の確定申告にかかる所得に含まれていないことについても当事者間に争いがないから、結局被告のした本件の更正処分および加算税賦課処分はいずれも適法である。

よつて原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺昭 裁判官 渡部雄策 裁判官 藤井一男)

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